タイムカードだけの残業管理には問題点も。残業申請制度導入のメリットとは?
従業員の日々の労働時間管理に、タイムカードを利用している企業も多いのではないでしょうか。確かにタイムカードは従業員の出退勤時間の記録には便利ですが、タイムカードだけの残業時間管理には限界があるかもしれません。この記事では、残業申請制度の導入によって適切な残業管理を行うヒントについて解説します。
この記事の目次
タイムカードによる残業時間の管理が難しい理由
平成29年1月20日、厚生労働省は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を策定しました。この改正は、それまで社会全体で常態化していた労働基準法に違反する長時間労働や賃金未払い残業などの問題に対応するために策定されたものです。
残業時間とは、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて働いた時間のことをいい、労働基準法によってその上限が定められています。このガイドラインでは、従業員の労働時間を適切に把握するために、使用者が具体的に取り組むべきことが示されており、従業員の労働時間の管理方法についても具体的に例示されています。たとえば、タイムカードやその他の方法で適切に把握していない場合は違法となるなど、より正確な労働時間の把握が企業に義務づけられるようになりました。
主に気を付けるべき点は以下です。
- 本人による記載
本人以外の者が記載を行うタイムカードは信憑性に欠けると判断されます。そのため、必ず本人による記載を徹底し、確認的な意味合いで日頃から周知することが適切です。もし恒常的に本人による記載が困難な場合、そもそも手書きでの運用自体が難しいため別の手段を選択することをおすすめします。しかし、稀な発生であれば管理者等が当該労働者の退勤時刻等を現認し、代理の者が記載する程度であれば直ちに法違反とはなりません。- 実態把握の徹底
本人による申告だけでなく、同じ部署の管理者や関係部署の従業員も含めて、定期的に勤務実態の把握に努める姿勢が重要となります。労働法制は、どんな形式で記録されたかよりも実態に即しているかどうかを重んじます。そのため、提出されている書面の形式にとらわれず、その内容が実態と乖離していないかどうかの精査が求められます。場合により、無告知による内部調査を行うなども効果を発揮するでしょう。- 管理者によるチェック体制
改ざんが行われていないか、または申告内容が誤っていないかを、管理者自身が定期的にチェックすることが重要です。万が一、誤りが発覚した場合は適切な手順を踏み、タイムカードの修正を進める必要があります。具体的には管理者の承認を得て、修正後のタイムカードを基に給与計算を行うことが挙げられます。
このガイドラインを遵守した勤怠管理を行うためには、タイムカードには限界があるでしょう。一般的なタイムカードの機能は始業・終業時刻のみを記録するものが多く、従業員ごとの残業時間を把握するためには、打刻データをもとに別途エクセルなどで集計しなくてはならないことが多いでしょう。
また、紙で打刻するタイプのタイムカードであれば、リアルタイムでの労働時間の状況を把握することが難しいため、最終的に集計した結果「いつの間にか残業時間の上限をオーバーしてしまった」ということもあり得るため、注意が必要です。
残業申請制とは?
残業申請制とは、従業員が時間外労働(残業)を行う場合に、事前に上司や人事担当者などの管理者に申請する制度をいいます。残業を行う旨を従業員に申請させることで、残業時間を適切に把握することを目的として導入するものです。
なお、申請に対して承認がなかった場合でも、事実として残業が行われた場合は、企業には相当する残業代を支払う義務が発生しますので、注意が必要です。また、就業規則等で「残業する際は事前に申請し、承認がない場合は労働時間として認めない」と定められていたとしても、黙認状態だった場合には同様に賃金支払義務が生じます。
このように、残業申請制度は「労働時間の適正な管理と労働条件の改善」につながる可能性のある制度ですが、そこにデメリットがないわけではありません。改めてメリット・デメリットについて確認してみましょう。
残業申請制のメリット
残業申請制を導入した場合、以下のようなメリットがあると考えられます。
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●コンプライアンス意識の向上につながる
残業申請をする際、上司や人事担当者などの管理者とコミュニケーションが生まれます。申請を受けた担当者は、申請を行ってきた従業員の残業時間が法律等に適合しているかどうかを確認することができます。その結果、万が一申請時点で残業時間の上限を超えていた場合は、業務調整を行うなどの措置をとることができます。このように、残業申請制度は法令遵守(コンプライアンス)につながるといえるでしょう。
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●残業時間の削減が期待できる
残業申請の際に、上司や人事担当者と相談することで、従業員の業務量や負担を可視化することができます。状況に応じて業務量の調整などの適切なサポートを行うことで、従業員の残業時間を調整・削減することができます。
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●従業員の健康管理に役立てられる
残業が重なり長時間労働につながれば、従業員には心身ともに負担がかかります。残業申請制度は、従業員が過度な長時間労働にならないようにする仕組みのため、制度を通じて健康やQOLを守ることが期待できます。
残業申請制のデメリット
一方、残業申請制には以下のようなデメリットも考えられます。
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●サービス残業の温床となるリスク
残業申請制度は、従業員が残業を行う前に申請する必要があり、これにより労働時間を削減することを狙いとしています。一方で、従業員の仕事量が変わらなければ、早出をしたり、自宅に持ち帰って仕事をしたりするなど、いわゆるサービス残業を招くおそれがあります。
早出残業や持ち帰り残業で足りない時間をカバーすると、その分の賃金が支払われず、未払いとなって労働基準法に抵触することにつながります。
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●手続き・管理の負担が増える
残業申請制を導入すると、従業員としては事前申請の工数や承認までの時間が取られるため、追加の負担が発生する可能性があります。
一方、管理者側としても、業務のヒアリングを行ったり承認の手続きをしたりする工数や時間を割かなくてはならず、負担は増加します。
また、クレーム対応やトラブル対応など突発的な業務に対応する際は、事前に申請・承認の手続きをとることが難しいケースもあり得るため、こういった場合にどのように管理するかも決めておく必要があるでしょう。
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●制度が形骸化するおそれがある
申請・承認の流れを設計しても、形式的なものになってしまうことがあります。
そうなると、申請の際の管理者の確認・承認により業務量の調整を図るなどの機能が失われ、長時間労働を抑制することが難しくなるでしょう。
残業申請制の導入方法
残業申請制度の導入を検討する際、大事なのは申請のルールを策定することです。
いつ、誰に申請するのか、どのような方法で申請を上げるのか。適切な労働時間管理のために、組織にとって最適なルールを定め、周知していく必要があります。以下、制度のスムーズな導入に向けてのステップを解説します。
申請方法の策定
申請方法の策定にあたっては、以下の項目について検討・策定します。
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●申請フローの策定
残業申請を従業員から申請した場合、承認者として誰が決裁権限を持つかなどを決めておく必要があります。「課長の承認で足りるのか」「その上の部長等の役職者まで承認が必要になるのか」、また「一次承認として課長が承認したのちに人事担当者が二次承認者として決裁するのか」などのフローを策定します。
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●申請方法
組織によってさまざまな方法がありますが、「書面での運用」「メールでの運用」「システムへの入力による運用」などが考えられます。
いずれにしても、組織の実態に合わせて、「残業を行う予定日」「残業理由」「想定残業時間」などの必要項目を検討し、管理しやすいようにフォーマット化して周知するとよいでしょう。
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●残業承認の基準
残業を承認する基準についても定めて周知しておきましょう。管理者によって基準が曖昧だと、従業員の不公平感を招き、仕事へのモチベーション低下にもつながりかねません。
また、事後申請になってしまった場合の取り扱いについても決めておく必要があります。 -
●残業後の報告の有無
事前の残業申請だけではなく、実際に残業したあとの報告を求めるのもよいでしょう。予実管理を行うことで、より詳細に残業時間の実態把握をしたい場合は有効といえるでしょう。
就業規則・申請書などの用意
残業申請制のルールを策定したら、ルールを明文化しておくことがポイントです。
一般的に残業申請制度は「就業規則」に記載されていることが多いでしょう。また、申請書の書式なども合わせて決めておくことが大切です。
現在ある就業規則に追加する場合は、法務や人事部が主体となり、就業規則改定の形で盛り込みます。改定の際は従業員の意見を聴取し、所轄労働基準監督署へ届け出ます。
また、策定した運用が適切に回るかどうかのチェックも必要です。たとえば、本導入の前に特定の部署で試験的に導入し、問題なければ全社に拡大するなど、事前にフィジビリティチェック(実現の可能性を探ること)を行うとよいでしょう。
従業員にとって守るべきルールが明確になると、公平性と一貫性が確保され、ひいてはスムーズな導入につながるはずです。
社内へのルール周知
残業申請制度を就業規則に記載した場合は、その内容を周知することで効果が発生します。効果的に周知するためには、まずは管理職や人事部など管理担当側のメンバーへ周知を行い、そこから従業員全体への周知を行うとよいでしょう。
効果的な周知方法としては、社内ポータルサイトがある場合は、そのポータル内に格納して活用しましょう。社内チャットやメール配信などのツールを活用するのも一つの方法です。
また、実際に申請するとなると、記載方法や入力の仕方がわからない従業員もいるかもしれません。管理者側・従業員側に分けて、残業申請制度に関する説明会を実施するのも効果的です。制度の概要や申請手続きのフロー、承認基準などを説明し、その場で質疑応答のパートを設けると、より一層の理解につながるでしょう。
実際に運用が始まると従業員から具体的な疑問が出てくることがあるので、相談窓口を設置しておくとよいでしょう。
制度導入の注意点
残業申請制を策定し、従業員や管理者への周知も終わったら、いよいよ運用開始のフェーズに入ります。導入当初の設定でつまずかないよう継続的にスムーズに制度を運用していくためにはどのような点に注意をすればよいのでしょうか。
ここでは、制度導入の際の注意点について見ていきましょう。
残業承認の基準を明らかにし、ルールの形骸化を防ぐ
残業申請制を導入したのち、適切な運用がなされるためにも、承認の基準を明らかにして形骸化を防ぐことが大切です。
制度の形骸化を防ぐために、以下の視点でチェックしましょう。
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●申請ルートが守られているか
残業申請のルートについて、申請・承認が行われる本来のルートがきちんと守られているのか、また申請・承認が本来想定していた管理者にて行われているのかどうかを定期的に確認することが必要です。
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●承認基準が明文化され、適切に運用されているか
事前申請があれば、どんな理由であっても残業可能としてしまっては必要のない残業をも誘発しかねません。残業が認められるケースの洗い出しを行って類型化し、そのうえで明文化して列挙しておきましょう。
また、列挙された判断基準で実際に可否を判断しているのかどうか、管理者側の運用も併せてチェックするとよいでしょう。
定期的な実態調査を行う
残業申請制の導入を行っても、制度をかいくぐって持ち帰り残業や未申告の残業などが発生し続けてしまうことも少なくありません。
こうした隠れ残業などが発生しないように、残業申請制の運用開始後も定期的な実態調査を行い、残業時間が適切に管理されているかを確認することが大切です。
チェックの方法としては、申請時間と入退場記録や、パソコンのログイン・シャットダウンの時間を照合するなどの方法があります。
厚生労働省のガイドラインも参考にしてください。
勤務形態に応じた申請方法を策定
企業や部署によってさまざまな勤務形態がある場合、最適な申請方法も異なります。
残業申請の時期や方法については、その従業員の業務内容や雇用形態などに応じて就業規則に定めるとよいでしょう。
たとえば、9時~18時で休憩1時間の勤務形態で働く場合と、フレックスタイム制で働く場合とでは、そもそも従業員の出退勤の裁量が異なります。フレックスタイム制で働く従業員にとっては、コアタイムがある場合を除いて自分の意思で労働時間を決めることができることから、正確な労働時間や残業時間を把握することが難しいといえます。
また、従業員側と管理者側とで残業申請制について正しく理解し、認識合わせをしていなければ、かえって長時間労働につながってしまったり、賃金未払い残業を引き起こしてしまったりする可能性もあるでしょう。コロナ禍を契機に増えてきた在宅勤務の場合は、より労働時間の把握が難しくなってきています。
企業の実態に合った残業申請制度の導入を行うためには、一定程度の管理の負担は必要となります。少しでも管理工数を削減するためには、残業申請制が組み込まれている勤怠管理システムの導入なども、一つの選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。
クラウド型勤怠管理システムを導入し、残業申請制をスムーズに運用
残業申請制の目的は残業を削減することにあります。残業規制の上限を超えることがなくなれば労働基準法違反のリスクを減らすことができますが、一歩進んだ環境整備をするならば、勤怠管理をシステム化することも一つの方法といえるでしょう。
残業申請制は業務状況の把握や残業時間の把握には適しているといえますが、従業員ごとにリアルタイムで出退勤や残業時間の状況を確認するとなるとやはり難しいものがあります。
勤怠管理をシステム化すれば、こういった勤怠の状況をリアルタイムで把握することができます。勤怠管理システムの導入には以下のようなメリットがあります。
- 残業申請のフロー・管理をすべてシステム化することで、従業員にとっての手間や管理側の工数を削減することができる。
- 従業員ごとに出退勤時刻を把握し、リアルタイムで自動集計することができる。そのため、手動で入力した場合に生じる可能性のある人的ミス(転記や集計の際に発生するミス)について減らすことができる。
- 月の途中でもリアルタイムに勤怠状況を把握できるため、残業時間の上限に達しそうな従業員をすぐに見つけて残業抑制の対応策を講じるなど、業務量の調整に役立てることができる。
このように、残業申請制の運用を勤怠管理システムに取り込んで実施することで、上記のようなメリットが得られます。
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