【人事労務担当者必見】勤怠管理を正確にすべき3つの理由
企業には従業員の労働時間を適正に把握する義務があります。労働基準法(※1)では、労働時間や休日・時間外・深夜労働について規定を設けており、賃金計算期間や労働日数、労働時間数、時間外労働・休日労働・深夜労働の時間数などを賃金台帳に記入することが定められています。また、労働安全衛生法では、長時間労働となる労働者の面接指導を実施するため、労働時間の把握義務があるとされています。具体的には、従業員一人ひとりの就業状況(出勤、休憩、退勤または残業などの各時間や休暇日)を企業が正確に把握する義務があり、これらの管理を総称して「勤怠管理」と呼びます。
従業員の就業状況は、労働条件の遵守をはじめ、賃金や源泉所得税、社会保険料などの広範囲に影響します。そのため、企業はタイムカードやICカードによる打刻、勤怠管理システム、パコソンのログインログオフの記録などを活用しながら、勤怠管理の精度を高めていくことが重要なポイントとなります。
今回は勤怠管理を正確にすべき3つの理由をご説明します。
従業員が健康に働き、法令順守を徹底するための職場作りにぜひお役立てください。
この記事の目次
~理由1~ 法律を守り、会社を守る
正確な勤怠管理を行うことは法律を守り、会社を守ることにつながります。
背景には、労働基準法の改正が大きく影響しています。
2019年4月に「働き方改革関連法」が施行(※2)され、従業員が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようになりました。そのため、企業は以下のような従業員の就業環境の改善の必要性がでてきました。
- 時間外労働の上限規制
(中小企業・小規模事業者への適用は2020年4月以降) - 年次有給休暇の確実な取得
- 中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率引上げ
(中小企業への猶予措置は2023年3月31日で廃止)
労働基準法(36条)では、法定労働時間である「1日8時間・週40時間」を超えて労働する場合や法定休日である「原則毎週少なくとも1回の休日」に労働する場合には「36協定の締結・届出」が必要となります。しかし、これまでの時間外労働の上限である「月45時間・週40時間」の基準は、厚生労働大臣の告示によるもので罰則がなく、臨時の特別の事情があって労使合意によって定めた「特別条項」を設けることで、実質上限無しに時間外労働を行うことができるものでした。
今回の法改正によって、36協定があっても時間外労働の上限が原則として「月45時間・年360時間」、特別条項の有無にかかわらず「時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満・2~6ヶ月の平均は月80時間以内」と労働基準法に明記され、罰則による強制力が生まれたのです(※3)。
但し、建設の事業、自動車運転の業務や医師など一部の事業や業務においては適用までに一定の猶予期間が設けられているケースもあります。
年次有給休暇の取得についても、法改正によって次のように定められました。
- 付与した日から1年以内に年5日の年次有給休暇を労働者に取得させることが使用者の義務
(対象:年次有給休暇が10日以上付与される労働者)
このような労働基準法の改正を踏まえて、企業は、従業員一人ひとりの労働時間や時間外労働時間、年次有給休暇の取得状況などをより正確に把握していく必要があります。
手書きや簡易的なエクセルなどによって勤怠管理をしている企業も多くあります。適正な勤怠管理ができないと、気付かないうちに労働基準法に反した働き方となっていることを見逃してしまう恐れがあります。法律に違反した際には「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」などといった罰則が科せられる可能性があるため、注意が必要です。
勤怠管理を正確に行うことは、法律を守り、かつ、会社を守ることにつながります。この機会に勤怠管理をより正確に行うことに目を向けていきましょう。
~理由2~ 従業員の健康管理
正確な勤怠管理を行うことは従業員の健康管理にも役立ちます。
長時間労働や時間帯が不規則な勤務、頻繁な出張などの過重労働によって従業員が健康を害するようなことがあれば、身体だけではなく、精神的な不調にも繋がる可能性があります。そのような事態を未然に防ぐには、まずは従業員一人ひとりの労働時間を適正に把握することが大切です。厚生労働省のガイドラインに、以下のようなことが定められています(※4)。
- 使用者は、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録すること
また、原則的な方法として以下のように定めています。
- 使用者が、自ら現認することにより確認すること
- タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎 として確認し、適正に記録すること
ガイドラインに則った従業員の勤怠管理を行うことで、正しい従業員の労働時間を把握することが可能となり、正確な時間外労働時間を計算することができます。
管理職、裁量労働制適用者などの従業員も対象となっており、あらゆる従業員に対してその義務が適用されます。時間外労働時間が多い従業員に対しては、業務内容の見直しを行うなど健康管理につながる対策を講じることが必要です。
~理由3~ コア業務への集中と人件費の適正化
勤怠管理を正確に行うことにより、人事労務担当者の手間の削減や、勤怠の不正申告リスクの低減、残業代の削減効果が期待できます。
1)人事労務担当者の締め日後の確認作業の削減
勤怠管理を紙やエクセル、タイムカードなどアナログベースで行っていて、締め日にタイムカードや出勤簿が空白だらけだったことはないでしょうか。
これでは、勤怠の締め日に従業員への確認作業に時間がかかり、給与支払いまでタイトなスケジュールで計算をしなければならなくなってしまいます。これは特に人の少ない中小企業でよくみかける事例ですが、人事労務担当者に大きな負荷がかかり、残業時間の増加要因となります。勤怠や給与計算は毎月行われる作業なので、年単位でみると会社にとっては大きなコストとなります。勤怠管理を正確に行うことで、人事労務担当者の業務効率化を図り、結果として会社にとって残業代の抑制につながるでしょう。
2)不正申告リスクの低減
紙やエクセル、タイムカードによる勤怠管理をしている企業の場合、出退勤を従業員が自ら打刻、申告する仕組みであるため、不正打刻が行われてしまう可能性があります。実際の労働時間より長い労働時間に変更し、残業代を多く受け取るなどの不正行為が考えられるでしょう。
また、紙のタイムカードで打刻している場合、出勤時間に遅刻しても他の従業員に打刻を行わせるといった不正行為も考えられます。
もちろん、従業員のほとんどはそのような不正行為を行うはずはありません。しかし、自己申告で勤怠管理をしている場合、人事労務担当者はリスクとして認識しておく必要があるでしょう。
このような不正行為の防止には、従業員が打刻などをコントロールできない、正確性が担保できるシステムの利用が望ましいでしょう。システムでの打刻では、修正に上長の承認を必要とするなど、紙やタイムカードに比べて不正が行われにくい仕組みになっています
3)残業代の削減効果
日ごろ各部署や担当者ごとの業務量の偏りが気になることはないでしょうか。その偏りこそが過重労働の発生や、残業代などの増加の要因になっている可能性があります。しかし、従業員一人ひとりの正確な就業状況を把握すれば、偏りは明確になり、人員配置の見直しを図ることができます。人員配置の見直しや業務の分散化によって、業務の効率化を実現できる可能性が高まり、ひいては無駄な残業代などを削減できるでしょう。
正確な勤怠管理にはクラウドがおすすめです
短時間で正確な勤怠管理を行うには専用の勤怠管理システムを導入することをおすすめします。そして、数ある勤怠管理システムの中でもクラウド型であれば、リモートでも出勤、退勤、残業時間、年次有給休暇の取得などを一元管理できるほか、労働基準法をはじめとする法改正があったときには、適切な時期にアップデートされるため安心です。
(参考)厚生労働省 賃金の支払い方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
(※2):厚生労働省「働き方改革関連法のあらまし(改正労働基準法編)」
https://www.mhlw.go.jp/content/000611834.pdf
(※3):厚生労働省「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」
https://www.mhlw.go.jp/content/000350731.pdf
(※4):労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000187488.pdf
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- 監修加治 直樹
- 銀行に20年以上勤務し、融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務の経験あり。在籍中に1級ファイナンシャル・プランニング技能士及び特定社会保険労務士を取得し、退職後、かじ社会保険労務士事務所として独立。現在は労働基準監督署で企業の労務相談や個人の労働相談を受けつつ、セミナー講師など幅広く活動中。
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