【社労士監修】人事労務担当者が知っておくべき5つの最新法改正~2020年度施行版~
今回は人事労務担当者が知っておくべき2020年に施行された法改正の内容を、社労士が分かりやすく解説します。2020年のおさらいとして貴社の運用が法改正に対応できているか今すぐチェックしてみましょう。
この記事の目次
施設での原則禁煙(健康増進法の一部改正)
健康増進法の一部改正により、「望まない受動喫煙を防止することは、マナーではなく法律で規制」されることになりました。施設等の類型に応じて一定の場所以外での喫煙を禁止し、都道府県知事(保健所設置市区は市長または区長)は、違反している施設の管理者に喫煙の中止を命ずることができます。
<基本的な考え方>
- 望まない受動喫煙をなくす
- 受動喫煙による健康への影響が大きい子ども、患者などに特に配慮する
- 施設の類型や場所ごとに対策を実施する
会社内においても、施設等の類型や場所ごとに禁煙措置や喫煙場所を特定することが必要です。従業員の「望まない受動喫煙」防止のため20歳未満の者を喫煙可能な場所に立ち入らせないようにするなど、受動喫煙を防止する対策を講じる必要があります。
いつから(施行日)
2020年4月1日~
注意すべきポイント
-
学校・病院・児童福祉施設等、行政機関、旅客運送事業自動車・航空機は禁煙
屋外で受動喫煙を防止するための必要な措置をとれば、喫煙場所の設置は可能です。
-
上記以外の多数の者が利用する施設、旅客運送事業船舶・鉄道、飲食店は、原則屋内禁煙
喫煙専用室内はたばこ全般の喫煙が可能であるが飲食はできません。加熱式たばこは原則屋内禁煙とし、加熱式たばこ専用喫煙室内での飲食は可能です。
-
一定の要件を満たす小規模な店舗は一部または全部を喫煙可能
以下の要件を満たす既存特定飲食提供施設では、喫煙可能なスペースでの飲食も認められます。
- 2020年4月1日時点で営業している(既存の飲食店)
- 資本金または出資の総額が5,000万円以下
- 客席面積100平方メートル以下
-
喫煙をサービスの目的とする施設は施設内での喫煙可能
バーやスナックなど喫煙を主目的とする施設や店内で喫煙可能なたばこ販売店、公衆喫煙所は、喫煙目的室を設けることができ、喫煙目的室内では飲食等のサービスを提供できます。
- (※参考):厚生労働省「受動喫煙対策」
民法(債権法)
民法の一部である債権法改正により大きく二つの改正が行われました。
労働者が事業者に請求できる「賃金請求権の消滅時効が延長」され、企業と身元保証人との間で契約を結ぶ身元保証書では「上限額(極度額)の定めがない個人の根保証契約は無効」となっています。
賃金請求権の消滅時効は2年から5年に延長されています。賃金請求権の消滅時効や、割増賃金未払いなどにかかる付加金の請求期間は経過措置を設け、当分の間は3年とされています。(※1)
従業員が入社する際、企業に損害を与えた場合に備えて身元保証人に「身元保証書」の提出を促している場合も多いでしょう。これまでは上限額(極度額)を定めず身元保証契約が可能でしたが、改正により2020年4月以降に締結された上限額(極度額)を定めない契約は無効となっています。ただし2020年4月以前に締結された施行前の身元保証契約は有効な契約となります。(※2)
いつから(施行日)
2020年4月1日~
注意すべきポイント
【賃金請求権の消滅時効の延長】
-
2020年4月1日以降に支払期日が到来する賃金が対象
時効期間延長の対象となるものは、休業手当や時間外・休日労働・深夜労働に対する割増賃金、年次有給休暇中の賃金など、すべての賃金請求権が対象です。
-
裁判所が事業主に未払賃金に加えて支払を命じることができる付加金も対象
付加金の対象となるものには、解雇予告手当、休業手当、割増賃金、年次有給休暇中の賃金があります。
【極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約】
-
入社時の身元保証契約も、保証金額の上限を定めなければ無効
極度額を定めないと身元保証契約を締結できなくなるため、身元保証契約書の内容を見直す必要があります。
社会保険・労働保険に関する一部手続きの電子申請義務化(特定の法人)
⾏政⼿続コスト削減を目的に、政府は電⼦申請の利⽤を促進しています。特定の法人の事業所が社会保険・労働保険に関する一部の手続きを行う場合、電子申請が義務となりました。
いつから(施行日)
2020年4月1日~
注意すべきポイント
-
特定の法人に該当すれば電子申請が義務
資本⾦・出資⾦などの額が1億円を超える法人、相互会社、投資法人、特定目的会社が対象です。
-
電子証明書の発行やパソコンの環境設定が必要
手続きによっては電子証明書が不要なものもありますが、パソコンの環境設定やブラウザの設定が必要です。電子申請に対応できる労務管理ソフトを導入すると手続きが楽に行えます。
65歳以上の社員の「雇用保険料免除」の廃止
65歳以上の従業員は、2017年1月1日から雇用保険の適用拡大により雇用保険の適用対象となっていました。経過措置により65歳以上の従業員の雇用保険料は免除されていましたが、2020年4月1日からは、雇用保険料の納付が必要です。
いつから(施行日)
2020年4月1日~
注意すべきポイント
-
保険料の納付を忘れに注意
4月1日に満64歳以上で、雇用保険の一般被保険者となっている従業員を高年齢労働者といいます。これまでは、保険料が免除されていたため、給料から雇用保険料を控除し忘れる可能性があります。労働保険の年度更新の手続きで、賃金総額に含まれているかのチェックをおすすめします。
- (※参考):厚生労働省「高齢者免除廃止リーフレット」
「パワハラ防止関連法」施行開始(大企業)
労働施策総合推進法の改正により、パワーハラスメントを防止するため必要な措置を講じることが企業の義務となりました。パワーハラスメントは以下のように定義されています。
「職場において⾏われる、優越的な関係を背景とした⾔動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるもの」
いつから(施行日)
2020年6月1日~
2022年4月1日~(中小企業)
注意すべきポイント
-
中小企業におけるパワーハラスメントの雇⽤管理上の措置義務は、2022年3月まで努力義務(※1)
中小企業の雇用管理上の措置義務については2022年3月まで猶予期間があります。しかし、職場におけるセクシュアルハラスメント(男女雇用機会均等法)、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント防止対策(※2)については、事業所の規模を問わず、2020年6月1日から義務化されています。労働者が職場におけるパワーハラスメントについての相談を行ったことや雇用管理上の措置に協力して事実を述べたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いをすることは、法律上禁止となっていますので注意が必要です。
- (※1):厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました」
- (※2):労働局「2020年(令和2年)6月1日より 職場におけるパワーハラスメント防止措置が、事業主の義務となります!」
まとめ
今回は人事労務担当者が知っておくべき2020年に施行された5つの法律を紹介しました。人事労務担当者は、働き方改革関連法などの主要な労働関係法令だけではなく上記のような法改正の内容もふまえて自社の運用の見直しを行いましょう。
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- 監修加治 直樹
- 銀行に20年以上勤務し、融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務の経験あり。在籍中に1級ファイナンシャル・プランニング技能士及び特定社会保険労務士を取得し、退職後、かじ社会保険労務士事務所として独立。現在は労働基準監督署で企業の労務相談や個人の労働相談を受けつつ、セミナー講師など幅広く活動中。
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