【社労士解説】タイムカードを押し忘れた社員にペナルティは違法?打刻忘れ防止策3つのパターンも紹介
タイムカードで労働時間の把握と管理をしている場合、うっかり従業員がタイムカードを押し忘れてしまうこともあるのではないでしょうか。そのようなときに、従業員に対して厳しいペナルティを与えてしまうと、違法になるケースがあります。
今回はタイムカードの押し忘れに対するリスク、従業員にペナルティを与える場合の注意点、社労士おすすめのタイムカード押し忘れ対策などを解説していきます。
自社の労働時間の管理・把握方法の見直しに役立ててください。
この記事の目次
タイムカード押し忘れの放置によるリスクとは?
タイムカードの押し忘れを放置するとどのようなリスクがあるのでしょうか。考えられる3つのリスクについて見ていきましょう。
給料や残業代の未払い問題
タイムカードの押し忘れにより正しく勤怠情報が把握できず、本来支払うべき給料との乖離に気づかないままでいると、従業員から給料や残業代を請求され、未払賃金による労使トラブルに発生する可能性があります。
労働契約や、就業規則で定められている賃金に未払いがあると労働基準法に違反します。従業員が労働基準監督署に相談すれば、労働基準監督署から厳しい指導を受けることになるでしょう。また、労働審判や裁判などの法的手段で未払賃金の支払いを求めてくることもあります。
なお、2020年4月の民法改正に伴い、労働基準法も改正され、賃金請求権の時効は5年(当面の間は3年)に延長されました。2022年現在、2020年4月以降に支払い義務が生じた賃金については、従業員は過去3年にさかのぼって請求できます。そのため、これまで以上に多大な支払金額が請求される可能性があります。
タイムカードも労働時間を管理する重要な書類であり、保存期間は3年です。実際の労働時間とタイムカードの勤怠情報に乖離がないように、企業には適正な労働時間の管理が求められます。
労働時間の上限規制に抵触する
企業には、労働時間を適正に管理する責務があります。タイムカードの押し忘れを放置したままでは、労働時間を正確に把握できません。正しい労働時間を把握しないままでいると、労働時間の上限規制に抵触する可能性があります。
働き方改革関連法の成立に伴い労働基準法の改正が行われ、2019年4月より時間外労働の上限規制が導入されました。労働基準法の時間外労働の上限は、原則⽉45時間・年360時間以内です。臨時的に特別な事情があって労使で特別条項を締結したとしても、時間外労働は年720時間以内、時間外労働と休⽇労働の合計は単月で100時間未満、2~6ヵ⽉の平均で月80時間以内としなければなりません。
労働時間の上限を超え、労働基準法に違反すると、最悪の場合「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられる可能性があります。労働時間の管理と把握は企業の責務となるため、従業員のタイムカード押し忘れが原因でも、企業の責任は免れないことに留意しましょう。
民法上の訴訟リスク
「タイムカードの打刻なしに業務を行う」「タイムカード打刻後に業務を行う」といった、いわゆるサービス残業は、賃金未払い問題だけにとどまりません。サービス残業や、長時間労働が原因となって従業員が心身に支障をきたした場合、労働契約法第5条の安全配慮義務(健康配慮義務)の違反となり、民事上の訴訟リスクがあることにも留意が必要です。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする
<出典:労働契約法第5条>
ここには、心身の健康も含まれます。雇用契約書や就業規則などに特段の定めがなくても、従業員に対して当然に安全配慮義務を負うとされているのです。
脳・心臓疾患にかかる労災認定基準では、「週40時間を超える時間外・休日労働が1ヵ月で45時間を超えるほど業務との関連性が強まる」といわれています。そのため、長時間労働が原因となって従業員に体調不良が発生すれば、安全配慮義務違反として民事上の損害賠償を請求される可能性があります。企業としては、労働時間を正確に把握し、長時間労働が発生しない職場環境を構築することが大切です。
押し忘れに対する違法なペナルティ、合法なペナルティ
度重なる打刻忘れを繰り返す従業員に何度注意しても改善されないときは、ペナルティを与えるケースもあるでしょう。しかし、よくあるペナルティが実は違法となる可能性もあるため、注意が必要です。
ここでは、どのような事例が違法にあたるのか、また法的に可能なペナルティは何かに視点を当てて解説します。
違法となるペナルティ
遅刻・欠勤あつかい
単なるタイムカードの押し忘れで、実際に勤務していることを周囲の人が把握していたり、実際に業務を行った証拠があったりする場合は、遅刻や欠勤のあつかいは不当となります。
厚生労働省が平成29年1月に策定した「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(以下厚労省ガイドライン)では、自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置として、自己申告が実際の労働時間と合致しているかを必要に応じて実態調査することとされています。
そのため、従業員の自己申告による実際の始業時刻や終業時刻と、タイムカードの時刻に乖離があれば、実態を調査して労働時間の規則を補正しなければならず、勤務していた実態が確認できれば遅刻・欠勤あつかいはできません。もし乖離した時間分を賃金控除してしまった場合、賃金未払いとみなされる可能性があります。
例えば、遅刻の例を挙げてみましょう。従業員が9時に出勤して10時に打刻忘れに気づいたとしても、同僚が始業時間に当人を確認していたり、メール等業務の履歴が残っていたりすれば、勤務実態があったとみなされ、1時間分を遅刻あつかいにすることはできません。欠勤に関しても同様に証拠があれば欠勤あつかいはできません。
合法となるペナルティ
懲戒処分による減給
条件を満たせば、懲戒処分による減給は可能です。
しかし、従業員にペナルティを与える場合には、以下の要素を満たしているか慎重に判断しなければなりません。
1.事前に就業規則の服務規律違反が懲戒処分の減給の規定で定められていること
就業規則に定めがなければ懲戒処分はできません。
服務規律は、会社で定める規則や業務命令を遵守すること、つまり、労働者が守るべきルールを定めたものです。「従業員は始業・終業時刻にはタイムカードを打刻し、出勤及び退勤時刻の記録をしなければならない」などと定めておくのがよいでしょう。
また、懲戒規定にも懲戒の種類に「減給」の項目を設け、減給事由として「第○○条第〇項第〇号の始業・終業時の手続きに違反したとき」などと定めておく必要があります。
2.減給する金額は法律の上限を超えないこと
減給の制裁は、労働基準法91条に減給する金額の上限が以下のように定められています。
- ・1回の額:平均賃金の1日分の半額
- ・総額:一賃金支払期の賃金総額の10分の1
そもそも、このペナルティ自体が就業規則に定められているからといって誰しもに適用できるのかは考えなくてはなりません。
労働契約法15条(懲戒)では、以下のような定めがあるため、民事上の判断も必要です。労働契約法は民法の特別法であり、その該当性は裁判などによる民事上の判断に委ねられ、客観的合理性と社会通念上の相当性がなければ無効となる可能性があります。つまり、タイムカードの押し忘れにやむを得ないような事情があった場合や処分として重過ぎると、裁判などで無効となるリスクがあるのです。
使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする
<出典:労働契約法第15条>
従業員がたびたびタイムカードを押し忘れ、注意しても改善が見られない場合には、就業規則の服務規律や懲戒規定に照らしあわせてペナルティを与えることは可能でしょう。しかし、従業員の行為が悪質であれば別ですが、たまたま数回タイムカードを押し忘れた程度で減給処分にしてしまうと、裁判では無効と判断される可能性もあるため注意しましょう。
- (参考):労働基準法91条
始末書の作成
懲戒処分の「けん責」として始末書の作成を指示することは可能です。しかし、「けん責」は懲戒処分の一種となるため、あらかじめ就業規則で定められている場合のみ指示できます。
また、従業員は始末書の提出を拒否することもでき、企業側から強要することはできません。
始末書は、裁判などで一定の効力があるといわれ、本人が不法行為などの事実を認めた自認による証拠として採用されれば、法的に有効になるという意味で拘束力を持ちます。当然、本人が認めていないことを強制することはできません。認めていないのに無理やり書かせたとしても、始末書の効力は生じないでしょう。
人事考課への反映
企業には、人事権が広く認められ、勤務態度や出退勤の状況などは人事考課でも評価項目とすることができます。事前に勤務態度の評価でタイムカードの打刻義務に関する項目を定めていれば人事考課への反映が可能です。
ただし、単なるタイムカードの押し忘れだけで人事評価を下げることが妥当な評価といえるかは、よく検討しなければなりません。裁判などで不当な評価と判断された場合、人事権の濫用として無効となるおそれがあります。
また、司法の判断で人事権の濫用による不法行為とみなされた場合には、慰謝料などの損害賠償を行わなければならなくなる可能性もあるため、注意しましょう。
処罰の注意点
処罰の際には、以下のポイントについても配慮が必要です。
【就業規則で懲戒規定を設ける前の行為】
従業員がミスをした後に処分する目的で就業規則に規定を追加しても無効となります。就業規則の懲戒規定を設ける前の行為について、就業規則をさかのぼって適用させることはできません。
【二重処罰は原則禁止】
過去に始末書などをとって処分したにもかかわらず、一度処分が済んだミスに対して再度処分を下すことも二重処罰となり原則できません。ただし、処分後に同様のミスを繰り返し、何度注意しているにもかかわらず改善が見られない場合には、過去の処分よりも処分を重くすることは可能と考えられます。
社労士ポイント:タイムカードさえ導入していれば、責務を果たしていると言える?
タイムカードを設置するだけでは、責務を果たしていると言えないでしょう。
企業には労働時間を適正に把握して管理する義務があります。
タイムカードは労働時間を適正に管理する一手段にすぎず、タイムカードの打刻時間は必ずしも労働時間と完全に一致するとは限りません。そのため、労働時間の記録が実態と異なるようなことがあれば、企業側で正しい労働時間となるように補正することが必要です。
上述した厚労省ガイドラインにおいて、労働時間の記録は、以下のような客観的な記録を基礎とすることになっています。
- ・使用者の現認
- ・タイムカード
- ・ICカード
- ・パソコンの使用時間の記録など
労働安全衛生法第66条の8の3にも、健康確保措置の観点から労働者における労働時間の状況把握の義務があることが明記されています。
例えば、実務上では、以下のようなケースが起きうるでしょう。
- ・タイムカードを打刻する機械が1台しかなく、順番を待っているだけで数分打刻時間が遅れてしまい、始業時刻までにタイムカードを打刻することができなかった
- ・急いで朝のミーティングに出席したために、手打刻を忘れてしまった
- ・取引先から急な電話がありタイムカードを押し忘れてしまった
など
事情によって、タイムカードの打刻時間が実態と異なってしまうことは多々あります。それらを一律に遅刻としていては、不適切な取り扱いとなるでしょう。
これらを防ぐためには、タイムカードを設置する場所の再検討や、スマートフォンを利用した始業・終業時刻の入力によるシステムの導入などの検討が必要です。また、始業時間まで会議や打ち合わせを行わないなど業務運用上のルール作りも検討しましょう。自社に合った労使双方が納得できる労働時間の記録方法を積極的に検討してみてはいかがでしょうか。
タイムカードの正しい修正方法は?
先述したように、労働者の自己申告と記録されている時間との間に著しい乖離がある場合は、実態調査を行い労働時間の補正を行います。
ただし、修正方法については法律で決まっていないため、会社ごとのルールでタイムカードの記録を修正しても問題ありません。修正の際は、以下の2点に注意しましょう。
修正前の打刻時間を残しておく
タイムカードの修正は、手書きになることが多いため、「労働時間を15分単位で切り捨てた」「実際の労働時間を短くした」などと従業員から不正を疑われる場合があります。そのため、従業員からあらぬ疑いをかけられないように、以下のような工夫をすることも効果的です。
- ・修正前の打刻時間が分かるコピー残す
- ・従業員本人から修正依頼があったメールなどの証拠を残す
- ・修正した時間は赤字で色を変える
- ・二重線を使って修正する
- ・修正前と修正後の時間が分かるように修正した箇所にコメントを付ける
など
勤務時間を減らす修正はNG
実際に働いた時間よりも、短く勤怠を記録することはできません。タイムカードを打つ時間を制限して、実際には早出や残業により業務を行っているにも関わらず、記録上始業・終業時刻を守っているようにすることは、違法行為です。
労働時間は、1分単位で計算するのが原則となり、先述した厚労省ガイドラインに沿った方法で労働時間を記録する必要があります。労働基準法第24条では、賃金は全額払いを原則としており、実際の時間よりも労働時間を短くして給料を支給した場合は、労働基準法違反です。
労働時間の記録は、従業員と必ず双方で確認をとり、正しい勤務実態を把握するようにしましょう。そのためには、月中から上長などがタイムカードに押し忘れがないかをチェックし、実際の労働時間との乖離があれば、従業員へ指導するなどの対策が必要です。
- (参考):労働基準法第24条
打刻忘れ防止策3つのパターン
従業員にペナルティを与えトラブルに発展すると、解決までに時間がかかります。また、労働時間を修正するにも実態確認が必要となるため、手間がかかってしまうでしょう。トラブル防止や、集計作業の効率化の点でも、タイムカードの打刻忘れを未然に防ぐことが大切です。よくある打刻忘れの防止策を紹介しますので、自社の労働時間の管理・把握方法の見直しに役立ててください。
動線の整理
毎日、必ず従業員全員が通る場所に設置して、出退勤のルーティーンに組みこむ方法です。具体的には、以下の場所に設置するのがよいでしょう。
- ・各部署のデスク付近
- ・スケジュールボード付近
- ・更衣室
従業員が多い場合は、分散して打刻できるように複数台タイムレコーダーを設置しておけば、混雑を避けることが可能です。
更衣室に設置する場合は、制服に着替えることが必要な業種に限定されるでしょう。制服着用を義務としている場合は着替えの時間も労働時間に該当する可能性があり、適切な打刻時間の把握につながります。
リマインドツールを使う
毎日決まった時間に出勤する従業員が多い場合は、以下のようなツールや仕組みに頼るのもおすすめです。
- ・始業・終業時刻にアラームを設置する
- ・打刻時間が一律の会社であれば、社内放送で促す
- ・カレンダーのTODOリストに入れる
- ・リマインド機能があるビジネスツールを導入する
基本的に、人は忘れてしまうことを前提に仕組み化・システム化することがポイントとなります。業務やプライベートで忙しいと、「やろうと思っていたのに忘れてしまった」ということはよくあることです。リマインド機能が付いたアプリなどリマインドツールを使うことで、忘れていた作業を思い出すことができるようになり、タイムカードの打刻忘れも減少するでしょう。
始業時間から一斉に業務が始められるようにするためには、アラームの設置や社内方法が有効です。
自社の始業・終業時刻の実態に合わせた方法として有効な方法を選ぶことが大切です。
定例やポスターなどで促す
ミーティングやポスターで周知して自分ごとにすることで意識を高められ、従業員自身が注意してタイムカードを打刻することができるようになります。毎日のタイムカードの打刻が、従業員自身のメリットになることをアピールすることが大切です。具体的にアピールするポイントは、以下のようなことが考えられます。
- ・タイムカードの出退勤時間は、従業員自身の給与計算の基本になっている
- ・勤怠時間を把握して従業員の健康管理に役立てている
- ・不備のあるタイムカードを放置していると労働基準監督署介入のリスクがある
社労士おすすめの打刻忘れ防止策
タイムカードの押し忘れが常態化している場合、給料や残業代未払いのリスクや労働基準法による労働時間の上限リスクなど企業にとってダメージの大きいリスクに見舞われる可能性があるため、早急に防止策を講じたほうがよいでしょう。
まずは打刻忘れの防止策を試して、それでもタイムカード打刻が定着しない場合はシステム自体を変更するというのもおすすめです。
近年は、インターネットの普及やリモートワーク化の波によりクラウド型勤怠管理システムを導入する企業が増えています。打刻忘れに効果的なポイントは2つです。
ポイント①:様々な打刻手段があるので、状況にあわせた打刻体制ができる
パソコンやスマートフォンからのWEB打刻に加えて、ICカード(社員証や交通系ICカードなど)によるタッチ認証、指紋認証や生体認証など様々な手段で状況に合わせて打刻できます。
リモートワークや出張、移動拠点が多数あるような企業でも、場所を選ばずいつでも打刻できる体制作りが可能となります。
ポイント②:自動アラート機能により、こまめな個別周知で打刻忘れの管理が可能
自動アラート機能によってすぐに打刻忘れに気づくことができるので、忘れないうちに対応することができます。打刻時間の修正も画面上でスムーズに書き換え可能なうえ、修正履歴も残る仕組みになっているため管理者側のチェックも容易です。
打刻忘れ対策以外にも、月中の残業管理や勤務表の自動作成など、従業員・管理者ともに手軽に勤怠管理が行える機能が多数搭載されています。
以下にクラウド型勤怠管理システムのメリットや導入事例のコラムを紹介しておりますので、ぜひとも参考にしてみてください。導入事例では、タイムカード利用から初めてシステム導入をした企業様の事例を紹介しております。タイムカード利用時に感じていた課題や解決例から実際に導入を経て気づいた「システム導入を成功させるポイント」まで掲載しておりますので、是非ともご覧ください。
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