サービス残業は違法/罰則や防止の取り組み事例【社労士監修】
所定労働時間を超えて労働させながら、賃金の支払いを行わないことをサービス残業といいます。サービス残業は、労働基準法第119条により「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処せられる違法行為です。
この記事では、サービス残業について、違反事例や厚生労働省からの通達の内容・罰則、労働時間を適正に管理するためのポイント、サービス残業防止策の成功事例について解説していきます。
この記事の目次
サービス残業とは
まずは、サービス残業とは具体的に何を指しているのか、サービス残業が発生する原因について詳しく説明します。
概要
サービス残業とは、終業時間後の残業や休日出勤に対して、所定の賃金や割増賃金を支払わずに労働させることです。
法律違反であると同時に、サービス残業が常態化していれば企業にとって様々なリスクを抱えることにつながります。労働者から仕事のやりがいや職場への愛着を奪い、さらに大勢の労働者から未払いの残業代を一括して請求された場合は、会社の事業計画や取引先への信頼にも深刻な影響を与えかねません。
このようにサービス残業を放置することは企業にとってデメリットが大きく、もし自社で発覚した場合はすぐに改善策を打ちましょう。
- (参考):厚生労働省 賃金不払残業(サービス残業)の解消のための取組事例集
- (参考):厚生労働省 サービス残業
原因
サービス残業が発生する原因としては、大きく分けて次の3つが考えられます。
●人件費抑制を目的として、企業側が意図的に強要
●不適切な勤怠管理方法
●残業申請しづらい企業風土
企業側が人件費抑制を目的として、意図的にサービス残業を従業員に強要するのは論外ですが、それ以外にも、勤怠管理方法が適切でないため実際の従業員の勤務実態を把握できていないケースなどもあります。あるいは、企業風土が残業を申請しない雰囲気を作り出している場合など、意図せずサービス残業が発生してしまうということも起こりえます。
そのような事態を防ぐため、自社がどのパターンに当てはまるのかを考え、適切な対策を講じておくことが重要です。
サービス残業の違法性とリスク
違反による罰則の把握と企業が抱えうるリスクについて理解し、対策を講じましょう。
違法性の説明
前提として、時間外労働(残業)自体が労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定 )の締結を行っていなければ違法行為にあたります。労働基準法32条によって労働時間は原則として、1日8時間、1週40時間以内と決められているため、時間外労働が発生することが予見できる事業所は、あらかじめ36協定の締結を行い所轄労働基準監督署長への届出が必要です。
そしてサービス残業は、時間外労働に対する割増賃金の未払いとなるため、労働基準法37条に違反することとなります。違反した場合は、労働基準法第119条の規定により、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処せられる可能性があります。
まずは、36協定を締結しているか、そのうえで時間外労働分の賃金が不払いになっていないかを確認する必要があります。
サービス残業の企業リスク
続いて、サービス残業を放置することにより発生するリスクを確認していきましょう。代表的なリスクは次の3つです。
●過労死リスク
●訴訟リスク
●労働基準法による罰則リスク
過労死リスクとは、長時間のサービス残業が積み重なることが原因で労働者が過労死に至ってしまうというものです。長時間労働による健康障害は、労働時間が月45時間を超えると発生率が高まるとされており、その最悪の事態が労働者の死亡です。
訴訟リスクは、サービス残業を強いられた労働者から訴訟を起こされるリスクを指します。裁判に敗れれば損害賠償等が必要になるだけでなく、サービス残業が存在した事実が公開されてしまう可能性もあります。そうなってしまうと企業イメージの低下は免れません。
労働基準法による罰則リスクは、先述の通りサービス残業自体が労働基準法違反となるため、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
違反事例
サービス残業の違反事例の主な例としては、以下のパターンがあります。
●会社側が意図的にサービス残業をさせていた
●実際の勤務実態の把握ができていなかった
1つ目は、会社側が人件費抑制を目的として、意図的にサービス残業を従業員に強要するケースです。2つ目は、勤怠管理方法が適切でないため、勤務実態が把握できず後からサービス残業に気づいたケースです。
ここからは、それぞれのパターンで違法とされたサービス残業について、2つの事例を紹介します。
①会社側が意図的にサービス残業をさせていた
労働基準監督署による調査によると取引先とのやり取りや防犯カメラの記録から実際の勤務時間よりも過少申告されている事が発覚した事例です。
この事例の会社では自己申告制による勤怠管理を実施しており、上長による打刻の現認を行っているとしていましたが、事情聴取の結果、朝礼や30分以内の残業は時間外労働と認めていないことがわかりました。
②実際の勤務実態の把握ができていなかった
ICカードによる勤怠管理と事前の残業申請を行っていたものの、労働者の申告と残業申請の実態乖離が起こっていた事例です。
総務部からのサービス残業禁止の社内周知を行っていましたが、全従業員に勤怠管理の重要性を徹底できていなかったこと、社内チェックの甘さが原因で適切な管理が行えていませんでした。
労働時間を適正に管理するためのポイント
サービス残業の発生を防止するためには適切な労働実態把握が欠かせません。しかし、労働者の自己申告制を不適切に運用し勤怠管理されているのが現状です。そのような状況に対応するため、厚生労働省によって勤怠管理にまつわるガイドラインが策定されています。
この章では、そのガイドラインをもとに、適切な労働実態を把握するための7つのポイントを解説していきます。
(1)始業・終業時刻の確認及び記録
始業および終業時刻をしっかりと確認することが重要であると理解しておきましょう。労働時間には通常業務に従事する時間とあわせて以下の時間も含まれるので注意しましょう。
●指定の服装への着替えなどのような就業業務に必要な準備行為や、掃除などのような業務終了後に行う業務に関連した後始末
●指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態での待機時間など
●参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、業務に必要な学習等を行っていた時間
(2)原則は、客観的な記録と判断できるような方法
労働者の労働日ごとの始業および終業時刻の記録は、客観的な記録方法により行う必要があります。客観的な記録方法としては、次のような方法が考えられます。
●タイムカードへの打刻
●ICカードによる記録
●パソコンの使用時間による管理
●勤怠管理システムによる管理
タイムカード等の紙での管理の場合、出張や外回りの際にはリアルタイムな打刻が困難な場合があります。勤務実態と打刻時間の乖離が生じないように適宜確認しましょう。
(3)やむを得ない場合は自己申告制
自己申告制で労働時間を把握する際は、主に以下のことに注意しましょう。
●労働者に対して労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うように十分な説明を行う。
●自己申告により把握した労働時間が、実際の労働時間と合致しているのか必要に応じて実態調査を行い、所要の労働時間へ補正する。
労働者にすべてを任せるのではなく、会社側で適正な労働時間を把握するという姿勢を忘れないようにしましょう。
(4)賃金台帳に労働時間などの記入が必要
賃金台帳を適切に整備しておくことも大切です。使用者は、労働基準法108条及び同法施行規則54条により、労働者ごとに、次の事項を賃金台帳に適正に記入しなければならないと決められています。
●労働日数
●労働時間数
●休日労働時間数
●時間外労働時間数
●深夜労働時間数
なお、上記事項が適切に記載されていない場合や、故意に賃金台帳に虚偽の労働時間数を記入した場合は労働基準法違反となり、30万円以下の罰金が科されることになるので注意が必要です。
(5)労働時間の記録を3年(将来的に5年)保管が必要
下記の労働時間に関連する記録は、労働基準法109条によって3年間(将来的に5年間に延長)保管するように定められています。
●労働者名簿
●賃金台帳
●タイムカード
●出勤簿
●その他の労働時間の記録に関する書類
労働基準監督署による調査が入った際には、長時間労働や未払い賃金などに関わる労働時間の管理が適正かを示すために上記の記録が必要となります。
労働時間に関する書類は適切に保管し、いざという時に即座に対応できるようにしておきましょう。
(6)労働時間の管理に問題があれば対応が必要
今現在労務管理上の問題が発生していないかを常に確認することも必要です。万が一、問題を発見した場合には、その解消に向けて直ちに対応することを心がけておきましょう。
注意点として、2019年4月の労働安全衛生法改正により健康管理を目的とした全従業員の勤怠情報が義務化されました。これまで労働時間の管理義務の対象外とされていた裁量労働制や管理監督者に相当する労働者も対象となります。自社の管理対象は問題ないのか、見直すことをおすすめします。
(7)労働時間は労使間での話し合いで解決すること
労働管理に関する問題が発生した場合には、労使間の話し合いによって解決を目指すのも一つの方法です。
企業には、労働時間等の設定の改善を効果的に実施するために、必要な体制の整備をするよう努力義務が課されています。その一例として挙げられている委員会のことを、「労働時間等設定改善委員会」といいます。労働時間等設定改善委員会などの労使協議組織を活用することにより、労使で協力して労働時間管理の現状把握や問題点の解消を進めていくことが可能です。
必要に応じて労使間の話し合いの場を設け、協力しながら問題を解決していきましょう。
サービス残業を防止するための取り組みポイント
サービス残業が生じないようにするためにはどのような取り組みが効果的なのでしょうか。
厚生労働省の「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針」では、サービス残業を解消するための4つの取り組みポイントが紹介されているので一つずつ解説していきます。
(1)労働時間の適正把握基準を遵守
労働時間の適切な把握なくして、サービス残業を防止することはできません。
適切な労働時間の把握には、労働時間を適正に管理するためのポイントを使用者が遵守するだけでなく、その内容を労働組合や労働者自身にも理解してもらうことが重要です。
労働者側の協力を得ながら、労働時間の適切な把握を進めていきましょう。
(2)職場風土の改革
サービス残業の原因の一つに、サービス残業を許容してしまう職場風土があげられます。
長年の慣行により、労働者側は残業代不払いを諦めている場合もあります。企業風土を改善するためには、経営トップによる決意表明や労使合意によるサービス残業撲滅宣言、労働者へ向けた教育研修などが効果的です。会社側からサービス残業をなくすという意思表示をすることにより、労働者の意識を改革していくことが大切になります。
(3)適正に労働時間の管理を行うためのシステムの整備
労働時間の適正な管理のためにはシステム整備が必要です。出勤や退勤時刻、入館や退館時刻の記録などについて現行の管理方法を見直し、必要ならば業務の進め方も含めた見直しを行いましょう。
見直し案として、たとえばサービス残業を是正する観点を考慮した人事評価制度の導入などが有効です。また、始業時刻と終業時刻の確認及び記録はタイムカード、ICカード等の客観的な記録によることが原則であることから、必要に応じて勤怠管理の手法の見直しも検討しましょう。
(4)労働時間を適性に把握するための責任体制の明確化とチェック体制の整備
責任体制の明確化やチェック体制の整備も欠かせません。
誰が労働時間に対する責任を持つのか管理責任者を明確にするとともに、サービス残業をチェックできる体制を整えていきましょう。
チェックに関しては、管理責任者とともに別の指揮系統に所属する複数人で確認する仕組みを構築することで、公正な視点で労働時間の確認が可能となります。また、企業内にサービス残業の相談窓口を設け、チェック機関としての役割を持たせる方法もあります。場合によっては、労働組合がそのような役割を担う場合もあるでしょう。
サービス残業防止の取り組みの対策事例
サービス残業が積み重なることで、労働者にも企業にもデメリットが生じます。
会社や家族のために頑張って働いても、残業代が適正に支払われなければ、労働者から仕事のやりがいや職場への愛着を奪うことにもつながります。
その結果は、企業経営にとっても大きなマイナスです。長時間労働による労働能率の低下、職場の士気の低下、会社の事業計画や取引先への信頼にも深刻な影響を与えかねません。
このようなリスクを排除するためにも、サービス残業が行われることのない体制づくりが重要です。下記で対策事例を紹介します。
事例1:残業申請とパソコンの稼働時間を連動させ、申請外の残業を防止
残業申請とパソコンの稼働時間を連動させて、サービス残業を防止した事例です。
この会社は、労働者によってパソコンで始業・終業時刻、残業申請を使っていましたが、複数の事業所で残業申請の記録に相違があったため労働基準監督署によって調査が実施されました。
調査の結果、業務日報やメールの送信記録から入力された終業時刻以降に業務が実施されていたことが判明し、サービス残業が行われていたことが確認されました。具体的な改善内容については、次の3つです。
●事前に申請した残業時間を超過するとパソコンが使用できなくなる仕組みを採用
●ICカードによる出退勤管理を導入し、パソコンに入力された時間とのチェックを実施
●本社の人事担当者が支店を訪問し、割増賃金が適正に支払われているかを確認
上記のように、申請時間を過ぎるとパソコンがシャットダウンされるなど、強制的にサービス残業ができない環境を作る手法は効果的といえるでしょう。
目視チェックだけでなく、物理的な仕組みでサービス残業をできなくすることも有効な方法であると学べる事例です。
事例2:ICレコーダーによる労働時間管理を実施し、労働時間管理を適正化
1つ目の事例は、ICレコーダーを活用して労働時間管理を適正化した事例です。
この企業では、労働基準監督署の内偵調査によってサービス残業が発覚したことが対策に取り組むきっかけとなりました。労働基準監督署が内定調査に至ったのは、長時間労働およびサービス残業の具体的な相談があったためです。調査により、夜間に時間外労働を行っている労働者を確認し、さらに労働者の自己申告に基づく残業管理簿と実際の勤務時間に大きな乖離が見つかりました。具体的な改善内容については、次の2つです。
●営業所長等を対象に労働時間管理に関する研修を開催
●残業時間を過少申告する職場風土があったため、残業管理簿を廃止してICレコーダーによる客観的な労働時間管理を実施
上記のように管理者を対象に労働時間に関する研修を行うことで意識改革を促したり、ICレコーダーなどで労働者が打刻しやすい労働時間管理方法を採用することにより、正確な勤務時間の把握が期待できます。
まとめ
サービス残業は、労働基準法32条または36条の違法行為にあたります。違法行為になることで罰則が科せられるだけでなく、過労死や賃金未払いに対する訴訟や補填、企業ブランドの毀損リスクを抱えることとなります。そのような事態に陥らないためにも、今回紹介したポイントを押さえて適切な対応を講じていくことが必要です。
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