働き方改革による残業時間の上限規制、違反リスクはあるのか?企業の対応策

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働き方改革による残業時間の上限規制、違反リスクはあるのか?企業の対応策

いわゆる働き方改革関連法が2019年4月以降に順次施行されています。それ以来、従業員の過重労働を減らして労働環境を改善するために、残業時間の上限規制が厳格化されてきました。このような社会全体の流れの中で、従業員を雇う側の企業においても、残業時間を削減し、生産性を高める動きが広まりつつあります。残業時間削減・生産性向上実現に向けて、企業はどのような取り組みをすればよいのでしょうか。この記事では、企業が取り組むべきポイントと、長時間労働抑制のために適切な勤怠管理を行うポイントについて解説します。

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この記事の目次

    政府が推進する働き方改革の基礎知識

    働き方改革とは、従業員の過重労働を減らして労働環境を改善するための取り組み全般をいいます。

    働き方改革は労働者の生活の質(いわゆるQOL)を向上させ、働きやすい環境を社会全体で整備することを目指しています。中でも、長時間労働や、長時間労働によりもたらされる健康上の問題を減らすとともに、個々の従業員の生産性を向上させることを重視しています。

    その一環として「働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)」が2019年4月1日より順次施行されました。以下に、働き方改革法案によって変更された「時間外労働の上限規制」について解説をします。

    時間外労働(残業)とは

    時間外労働(残業)とは、労働基準法に定められた労働時間を超えて働くことをいいます。
    ここでいう「時間外労働」とは、「法定労働時間」を超えた分を指します。法定労働時間は週40時間または1日8時間とされており、超過した分が時間外労働となります。
    たとえば、所定労働時間が7時間の従業員が9時間働いた場合は、1時間は法定時間内の労働となり、残りの1時間分が時間外労働となります。
    時間外労働は、法定労働時間内に業務が終わらない場合に発生するものです。時間外労働を行うと、その時間に対しては通常の給料よりも高い割増しの賃金が支払われます。一般的に「残業手当」と呼ばれるものがこれに当たります。

    時間外労働の上限規制が設けられた目的

    長時間働きすぎると、労働者の健康や安全が損なわれるリスクがあります。
    毎日仕事ばかりでストレスを抱えたり、十分に体を休める時間がなくなってしまうほか、「十分な食事や栄養がとれない」「運動不足」「睡眠不足」などの乱れた生活習慣により、「慢性病」「心臓病」「精神的健康問題」などのリスクが増加することがあります。
    時間外労働に上限を設けることで、これらの健康リスクを軽減することが期待できます。

    また、長時間労働の文化は、労働者のプライベートや家庭生活に悪影響を及ぼす可能性があります。従業員がゆっくり体を休め、ほっと一息つく時間がなくなるばかりでなく、彼らの家庭や、仕事以外の社会生活にも影響を及ぼしかねません。時間外労働の上限規制は、仕事と私生活の間でのよりよいバランス、QOL向上を図ることを目的としています。
    さらに、労働者の疲労やストレスが蓄積すると、ミスが増え、問題解決能力が低下するなど、生産性が低下するおそれがあります。このため、時間外労働の上限を設けることで、生産性向上にもつながります。

    36協定と時間外労働

    36協定とは、労働者に時間外労働や休日労働をさせる際に必要な法律上の取り決めのことをいい、労働基準法の第36条を根拠としているため「36(サブロク)協定」と呼ばれています。
    36協定を結べばいくらでも残業ができるわけではなく、以下のように月間および年間の時間外労働及び休日労働の上限時間が定められています。

    期間 限度時間
    1週間 15時間
    2週間 27時間
    4週間 43時間
    1か月 45時間
    2か月 81時間
    3か月 120時間
    1年間 360時間

    かつては、これらの上限を超えて労働者を働かせたとしても、行政指導の対象とはなるものの法律上の罰則はありませんでしたが、2018年6月の労働基準法により時間外労働を違法に行わせた際の罰則が設けられました。

    また、基本的には36協定を結ぶことで一定の時間外労働が可能ですが、例外もあります。たとえば、18歳未満の年少者はたとえ協定を締結していたとしても、残業を命じることはできません。

    残業規制の開始時期

    日本では1947年に労働基準法が施行され、労働時間の上限や休日などが初めて規定されました。その後も、過重労働の問題に対処するために、さまざまな法改正や規制強化が行われてきました。
    具体的な時間外労働の規制については、「働き方改革関連法」が2019年から順次施行され、多くの労働者を対象に時間外労働の上限規制(月45時間、年360時間)を設けるなど、より厳格な規制がスタートしました。

    この「働き方改革関連法」は労働時間の制限をさらに強化し、従来36協定の締結によって例外的に認められてきた時間外労働についても厳しい上限が設けられています。
    これらの規制の適用開始時期は、中小企業については2020年4月からとされており、一部の業界については2024年4月から施行されることとなっています。

    法令に違反するとどうなる?

    過重労働は従業員の健康に重大な影響を及ぼすだけでなく、企業にとっても少なからぬリスクをもたらすことになります。

    刑事上のリスク

    もし36協定を締結しないまま残業を命じていたなどで法令に違反していた場合、悪質とみなされて立件されれば、企業には罰則が科される可能性があります。6か月以下の懲役または30万円以下の罰金ですが、もし立件されて刑事訴追されたことが公表されれば、社会的なインパクトは大きいものと考えられます。取引先や株主などのステークホルダーへの影響も大きく、マイナスの影響がありうるでしょう。

    行政上のリスク

    刑事事件として立件されなくとも、労働基準法違反として労働基準監督署から是正勧告を求められる可能性があります。行政指導を受けること自体が企業にとって重大なリスクであるといえるでしょう。
    また、長時間労働を原因として従業員の健康を損なった場合、労災認定される可能性もあります。

    民事上のリスク

    長時間労働によって従業員の健康被害が起きたことを理由に、労働者本人に損害賠償を求められる可能性があります。長時間労働を原因として労働者が自死してしまった場合は、その遺族から訴追を受けるリスクもあるでしょう。
    もしもそうなった場合、単に損害賠償の責務を負うだけでなく、企業のブランドイメージや社会的信用を損なうなどの甚大な影響を受けることになってしまいます。

    手間のかかる勤怠管理、効率化しませんか?

    残業削減による課題も一方で浮上

    残業時間の上限規制により、使用者は労働者に長時間の残業を命じることはできなくなりました。これまで見てきたように、長時間労働の抑制は労働者にとってメリットが多いと考えられますが、一方で課題も浮上しています。以下、どのような課題があるのか、具体的に解説していきます。

    残業代の減少で手取り収入が減った

    残業時間の上限規制により、使用者は労働者に長時間の残業を命じることはできなくなりました。それにより、これまでたくさんの残業代を得ていた労働者の場合、手取りが減ってしまうことになります。
    業務量を調整し、基本給を上げるなどの対応が同時に行われればよいのですが、業務量も変わらず、限られた時間の中で生産性を上げて結果を出さなくてはならない場合もあるでしょう。その場合、同じ仕事をこなす一方で手取りが減ってしまうとなれば、労働者は不満に思うこともありえます。
    自分の働きぶりに対して報酬が見合っていないと感じると、仕事への基本的な態度やモチベーションが低下してしまうこともあるでしょう。

    残業時間にカウントされないサービス残業、仕事の持ち帰りの増加

    会社から残業時間を減らすように言われる一方で、実際の業務量が減らなければ、どこかにしわ寄せが行ってしまいます。時間内に労働者が仕事を終わらせることができなければ、翌日に持ち越すことが考えられますが、必要な作業が依然として残っている場合は、持ち帰り残業(いわゆるサービス残業)が増える可能性があります。
    しかし、持ち帰り残業を認めてしまうと、労働時間が適切に管理することができず、賃金未払いとなるリスクがあります。また、会社が把握しないまま長時間労働を行っていることになり、健康問題を引き起こす可能性もあります。

    業務量が不均等になる

    残業を制限すると、限られた時間内で多くの業務をこなすことができる生産性の高い労働者と、そうでない労働者がどうしても出てきます。生産性の高い労働者に、逆にどんどんタスクが回ってくることになりかねません。生産性の高い労働者とそうでない労働者の間で不公平な状況となり、仕事量に不均衡が生じてしまいます。
    また、一部の労働者に仕事が集中することで、その人に過度なプレッシャーやストレスを与える可能性があります。

    管理職の負担が増える

    管理職は時間外労働規制の対象外とされており、残業手当も支払われない場合があります。管理職でないメンバークラスの労働者の残業時間が制限されていると、管理職が仕事を巻き取って対応に迫られるようなことが生じるほか、部下の労務管理、仕事の完遂、目標達成などの責任を求められることとなります。
    こういった状況下においては、管理職の肉体的負荷が増える可能性があります。また、部下が定時で退社して管理職が遅くまで働く状況では、孤立感やストレスが増加するなどの精神的負荷も増える可能性があるでしょう。
    このように、管理職の負担が増え、労働環境が損なわれるリスクがあります。

    働き方改革における残業規制に対して企業が取り組むべきこと

    ここまで働き方改革による残業規制の目的や、長時間労働がもたらすさまざまなリスクについて解説してきました。そのリスクを回避し、よりよい職場環境を整え、生産性を高めていくために、企業としてはどんな取り組みをすべきでしょうか。
    残業規制を考える前提として、個々の労働者の残業の実態をきちんと把握しておくことは不可欠です。ここでは適切な労務管理のポイントと残業規制について解説していきます。

    従業員の労働時間をしっかり管理する

    残業時間の上限を超えないようにするためには、まずは個々の労働者の始業・終業時間の適正な管理を行い、労働時間を「見える化」する必要があります。そのためには、勤怠管理を適切に行うことが大切です。
    勤怠管理を適切に行うためには、タイムカードや勤怠管理システムを用いるなど、客観的に記録を管理できるものを利用するのがおすすめです。
    中でも勤怠管理システムは、システム上で従業員ごとの出退勤情報を収集したのち、月次などでトータルの労働時間を自動的に計算することができるため、労働時間の管理の手間を削減することができます。通常の出退勤管理勤はもちろん、リアルタイムな残業時間の集計や、複数種類の休暇管理など、勤怠管理に必要な詳細なデータも併せて管理することが可能です。中でもクラウド型の勤怠管理システムは、システム提供会社による既存の勤怠管理システムを契約して利用する形のため、比較的簡単にシステム導入が可能であるため、まずはこういった環境整備に着手することから始めるのもおすすめです。

    残業の根本原因を調査

    残業過多になっている根本原因を改めて調査することも有用です。原因が特定でき、解消できれば残業自体を減らすことができます。原因の調査の手法については、以下をご参照ください。

    ①労働時間の現状把握

    まずは従業員の労働時間を確認し、データを分析します。
    「特定の部署や時期によって偏りがないか」「特定の部署や、役職、プロジェクトで工数がかかっていないか」などを可視化していきます。

    ②業務内容の確認

    現状を可視化した結果、特定の部署やプロジェクトで残業が多いことが判明したら、その業務内容について確認していきます。それぞれの業務に、どの程度の労力や時間が必要なのかを洗い出しましょう。また、他の部署と比較して、特定のメンバーに業務が偏っていないかを確認します。

    ③労働力の適正配置の確認

    特定のスキルや専門知識を要する業務に対して、適切な従業員が配置されているか確認します。ここで必要なスキルや経験をもつメンバーが適材適所に配属されていると、生産性向上につながるでしょう。

    定時で業務を終わらせるような風土を醸成

    かつての日本で多く見られたような残業を称賛するような文化・風土が残っている企業もあるかもしれません。そういった環境下では、残業することが美徳とされて評価されるため、なかなか残業を減らすことが難しいかもしれません。
    労働時間を遵守し、定時で業務を終了するような風土を醸成することが必要ですが、そのためにはトップダウンでの発信が重要です。たとえば、経営陣などが生産性向上やワークライフバランスの重要性を前面に打ち出し、定時退社を奨励するようなメッセージを発するなど、率先して行動することが効果的といえるでしょう。
    また、従業員への時間管理・生産性向上に向けての教育も重要です。効率化のためのスキルアップをサポートするなど、所定の時間内に業務遂行できるようにすることも大切です。

    業務効率化できるところを整理、改善

    そもそも「不要な業務はないか?」の視点での見直しも重要です。業務効率化のための整理と改善は、組織の生産性向上に欠かせないステップです。
    まずは現状の業務プロセスを洗い出してみましょう。業務の流れはどうなっているのかを理解し、各ステップがどのように機能しているかを明確にします。
    次に、既存のプロセスの中での課題を特定します。「無駄な作業をしていないか?」「新しいシステムを入れる余地はあるか?」など、効率化できるところを洗い出します。
    そして課題を特定したら、それを解決するための改善策を検討し、実行します。
    こうして計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)のPDCAを回していくことで、整理・改善を進めていくとよいでしょう。

    勤怠管理システムの導入で労働時間を客観的に管理

    ここまで見てきたように、残業規制を遵守する前提として、従業員の勤務状況を適切に把握することが重要です。残業時間の上限規制が強化されたことにより、企業にはより労働者が働きやすい環境づくりや生産性向上が求められるようになりました。これらを実現するためには、前提として労働者の勤怠状況を適切に把握することが不可欠となります。

    従業員の勤怠を正確かつ適切に把握するためには、適切に勤怠管理を行う環境を整備することが必要です。そして、適切な勤怠管理の実施にあたっては、厚生労働省のガイドライン「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を遵守する必要があります。ガイドラインでは「使用者は、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録すること」とされており、上長が勤怠を現認する方法や紙での管理などのアナログ管理であったりと、実際の現場で実施することはなかなか難しいかもしれません。

    そこで、勤怠管理のシステム化をおすすめします。
    勤怠管理システムは、システム上で従業員ごとの出退勤情報を収集したのち、月次などでトータルの労働時間を自動的に計算することができるため、労働時間の管理の手間を削減することができます。通常の出退勤管理はもちろん、リアルタイムな残業時間の集計や、複数種類の休暇管理など、勤怠管理に必要な詳細なデータもあわせて管理することが可能です。

    従来型のタイムカードやエクセルなどを利用して管理する場合、リアルタイムで従業員の残業状況のチェックが難しく、また年間を通じた把握や各月の平均等のデータを算出するような作業にもかなりの手間がかかっていましたが、勤怠管理システムでは従業員の勤怠状況を日次で残業時間とあわせて自動集計されるため、リアルタイムに長時間労働の傾向がある従業員を特定できます。また、長時間労働が見込まれる従業員や上司にアラートを出して業務調整を促す機能など、長時間労働を未然に防ぐための機能もあるため、労務担当者だけでチェックするよりも効率的に管理することができます。

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    石川 弘子
    • 監修石川 弘子
    • フェリタス社会保険労務士法人 代表
      特定社会保険労務士、産業カウンセラー、ハラスメント防止コンサルタント。
      著書:「あなたの隣のモンスター社員」(文春新書)「モンスター部下」(日本経済新聞出版社)
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